光岡知足
Bio / 生命学

「腸内細菌と仲良くするための食事とは?」

光岡知足③

腸内細菌学のパイオニア・光岡知足先生のインタビュー。ミクロの生命の世界から、世界とつながる調和のあり方を問う全4回シリーズの第3回です。

腸内細菌学の第一人者である光岡知足先生へのロングインタビューも、いよいよ最終回。ヨーグルトはどこまで体にいいのか? ——おなじみの食材を切り口に始まったインタビューですが、今回はさらに踏み込んで、腸内細菌と仲良くする光岡流・食事の摂り方についてご指南いただきます。体調を保ち、能力を発揮するためにどんな食べ方が望ましいのか? 先生ご自身の体験もふまえながら、その秘訣をたっぷりとお届けします。

■「プロバイオティクス」から「バイオジェニックス」へ

光岡

そうです。生きた菌にこだわる必要がないので、従来のプロバイオティクスという概念が当てはまりません。そこで新たに「バイオジェニックス」という概念を提唱するようになったのです(→前回のインタビューを参照)。

光岡

正確に言えば、量というよりも菌の数ですね。

光岡

そうした実験はまだされていないと思います。これからの課題でしょう。

光岡

ええ。ただそれも明確な根拠があって言っているわけではありません。経験的にそれくらいの量をすすめていたんだと思いますよ。

光岡

市販のヨーグルトやヤクルトのような乳酸菌飲料には、1mlあたり1000万個以上の乳酸菌が含まれています。法律(乳等省令)でそう定められているので、それ以下のものはヨーグルト(発酵乳)や乳酸菌飲料としては販売できないんです。500mlのヨーグルトでは50億個ということになりますね。

光岡

わかってはいません。少なくとも腸内の善玉菌がそれで増えるということはない。ビクともしないでしょう。繰り返しますが、死菌(菌の成分)が免疫を刺激する、その結果、善玉菌が増える可能性があるということです。

■乳酸菌のサプリメントを摂取することの意味

光岡

私は250mlくらいでしょうか。ドイツに留学した1964年以来、毎日の習慣としてヨーグルト食はずっと続いています。

光岡

そうです。ただ、あくまで個人差はあります。量については自分で確かめなければなりません。それから、食事の内容もとても重要です。ヨーグルトさえ摂れば健康になれるわけではな���ですから、その点を勘違いしてはいけません。

光岡

体にいいものであっても、好きだから食べるということでいいんですよ。嫌なら摂らなければいい。

光岡

正確な菌数はハッキリわかりませんが、そのくらいのものもあるでしょう。

光岡

私の知る限り、イタリアのギオンチェティという学者が、潰瘍性大腸炎の患者に1日2兆個ものプロバイオティクス(乳酸菌製剤)を摂取させることで効果が得られたという報告はあります。

光岡

詳しく言えば、死菌や菌の分泌物を使ったサプリメントが乳酸菌生産物質、生きた菌を凍結乾燥させてカプセルに閉じ込めたものが乳酸菌製剤と呼ばれています。

前者は生きた菌を使わないので、一般的に知られているプロバイオティクスではなく、私がいうバイオジェニックスに該当すると考えればいいでしょう。

光岡

そうですね。サプリメントとしては高額ですが、先ほどの潰瘍性大腸炎のように特定の疾患を抱えた人などは試す価値があるでしょう。症例自体はかなりあります。カプセルで飲めますから、毎日摂っても飽きるということもありません。

光岡

自分のところの商品とバッティングしてしまいますから、おそらくあまり手はつけないでしょう。

■腐敗か発酵か、それが腸の健康のバロメーター

光岡

そうでしょう。だから研究がなかなか進まないという問題もあります。ところで、ヨーグルトにはもう一つ問題がありました。たくさん摂ったほうがいいんですが、脂肪の量が多いんです。

光岡

そうです。私はずっと以前から低脂肪のヨーグルトを開発するべきだと言ってきました。それがようやく実現し、いまでは低脂肪のヨーグルトも普通に販売されるようになりましたが……。

牛乳や乳製品は3%が脂肪ですから、100ml摂ると3g、私のように250ml摂れば7.5gです。こうなると、さすがに動物性脂肪の摂りすぎでしょう。

光岡

ええ。ヨーグルトは本来、砂糖を入れずにプレーンで摂るものです。甘みが欲しい人は、オリゴ糖を加えたり、果物などと一緒に食べればいい。私も、毎朝そうやっていただいていますよ。

光岡

無脂肪のプレーンヨーグルト250mlにブルーベリーやサイリウム、イサゴール(ともに天然の食物繊維)などを入れていただいていますね。ほかに小さなパンを一つ。市販の野菜ジュースを1パック。

光岡

そうです。私の食事を参考にしても構いませんが、それが自分の体に合っているかどうか、便の状態を基準にすることです。毎日便があるかどうか、便の状態がどうかで、腸の健康状態は判断できますから。

光岡

そう。毎日、排便するというのが大事なことです。

光岡

腐敗というのは、pHが8以上のアルカリ性で起こるものなのです。それが、pH6.0以下の酸性になると腐敗菌(悪玉菌)が発育できないような腸内環境になる。腐敗菌の代わりに、乳酸菌などの善玉菌が多くなるんですね。乳酸菌が多いと、腸内で腐敗菌は増殖できないんです。

光岡

何か原因があるんでしょう。日常のストレスも関与していますから、食べ物だけを変えても便通が良くならない場合もありますが、便の状態がその人の健康状態の目安となることは間違いありません。

いずれにしても、いまの自分の体調を知る一番簡単な方法ですから、便のチェックだけは毎日欠かさずにしてほしいですね。私がサイリウム(イサゴール)を摂っているのも、便秘を予防し、日々の健康状態を確保するための一種の安全弁です。

■光岡流・「不健康食」のススメ?

光岡

問題となるのは動物性のタンパク質ですね。牛肉のような血の多い肉にはミオシンというタンパク質の成分が含まれますが、あれが悪玉菌(大腸菌やウェルシュ菌など)のエサになり、腐敗をうながすんです。こうした腐敗がくさい便やおならの原因になると考えてください。

光岡

ええ。牛肉でも血の少ないロース肉のほうがいいですが、これをあまり摂りすぎると今度はコレステロールの摂りすぎになってしまいます。まあ、腸の健康を考えたら、肉類は1週間に1~2回程度がいいかもしれません。血管を強くしたり、体力をつけたり、プラスの面もありますから……。私も1週間に1~2回くらい、こうした不健康食を食べています。

光岡

時には好きなものを好きなように食べていいんです。だけれども、その後にまた健康食に戻る。この繰り返しがいいんです。

光岡

基本的にはそうですが、体質が一人一人違いますから、肉が絶対にいけないというわけではありません。日野原重明さんのように、もうすぐ100歳になろうとしているのに、週に2回くらいはステーキを食べるという人もいますしね。お酒にしてもストレス解消になりますから、いいワインを適量飲むのも悪いことではありません。赤ワインでしたら、魚や野菜よりステーキのほうが合いますよね(笑)。

光岡

「これは体に悪いんだけど……」なんて思いながら食べるのはダメ。美味しいと思って食べるからストレス解消にもなるんです。

光岡

もちろんいるでしょう。どちらにしても、自分自身の便をチェックすればいいわけですから、食べているものが自分の体に合っているか、すぐにわかるはずです。

■「吸収が遅い食べ物」が腸の働きを元気にする

光岡

構わないと思いますよ。オリゴ糖は甘みがありますが、血糖はほとんど上がりませんから。

光岡

腸から吸収できないですからね。要するに、体内にオリゴ糖を分解できる酵素がないんです。そのため、摂取すると腸内に留まって、それが善玉菌のエサになる。結果として、腸内環境が整っていくわけですね。

光岡

腸が硬いというのは、便秘で便が硬くなっているのではなくて?

光岡

それが事実としたら、おそらく消化しにくいものをあまり摂ってないからでしょう。腸の硬さが気になる人は、まず野菜をしっかり摂って、そのうえでサイリウムなどを補助的に摂るといいです。

光岡

粉物だと、腸からみんな消化吸収されてしまうでしょう? だから、腸内にカス(食物繊維)はほとんど残らない。玄米のような未精製の穀類を摂るようにしたら、腸内に残るカスがかなり多くなります。

光岡

基本は野菜を一緒に摂ることです。それも、普段より多めに。

光岡

吸収しちゃうから。カスがないんですよ。

光岡

カスがあると腸を刺激するから、速く排泄しようとする。その結果、ぜん動が促され、お通じが良くなるんです。肉類は速く吸収されるからカスが少ない。その結果、ぜん動も鈍り便秘になりやすい。

光岡

カスが少なくなって、しかも悪玉菌を増殖させる。そうなると、腸内のpHがアルカリ性になる。酸性になると腸ぜん動の刺激が高いからどんどん排泄されるのですが、アルカリ性だと刺激が少ないんですね。だから、腸の健康を保とうと考えたら、腸内環境をアルカリ性にしないことが大事なんです。

赤ちゃんは、すぐに便が出るでしょう? 赤ちゃんの腸内にはビフィズス菌が多いから、健康体であれば酸性の腸内環境になっているわけです。

光岡

そう、赤ちゃんみたいにはなれないけど、カスを多くすることで排泄がスムーズになる。それが腸内環境を整える基本の一つ。腐敗が起きると、どうしても腸ぜん動が鈍ってしまいますから、年を重ねるほどに食事でのコントロールが重要になってくるのです。

光岡

肉を食べてはダメだと言っているわけではありません。繰り返しますが、腸内細菌のバランスが重要なのです。肉を食べた後に便が臭かったり、便秘が続くようなら、バランスが崩れている証拠です。

栄養価を考えることも大事ですが、腸の反応を無視していてはせっかくの栄養が健康を妨げる要因になりかねません。

腸内の善玉菌が活動しやすいよう、つねに食生活の改善やストレスケアに努めること。善玉菌の割合が20%くらいに保たれていれば、お通じの調子もよく、腸内の腐敗も起こらなくなります。

↓バックナンバーはこちらになります。

■全体の「2割」が変わるだけで調和が訪れます(光岡知足インタビュー①)

■「生きた菌が腸まで届くから健康になれるわけではないんです」(光岡知足インタビュー②)

★プロフィール

光岡

知足(みつおか・ともたり)

1930年、千葉県市川市生まれ。東京大学農学部獣医学科卒業。同大学院博士課程修了。農学博士。’58年、理化学研究所に入所。ビフィズス菌をはじめとする腸内細菌研究の世界的な権威として同分野の樹立に尽力。腸内フローラと宿主とのかかわりを提唱し、腸内環境のバランスがヒトの健康・病態を左右すると指摘した。「善玉菌」「悪玉菌」の名づけ親としても知られている。

ベルリン自由大学客員研究員、理化学研究所主任研究員、東京大学農学部教授、日本獣医畜産大学教授、日本ビフィズス菌センター理事長を経て、現在、東京大学名誉教授、理化学研究所名誉研究員、日本獣医生命科学大学名誉博士。日本農学賞、科学技術長官賞、日本学士院賞、メチニコフ賞などを受賞。趣味はクラシック音楽鑑賞とバイオリン演奏。大学在学中からバイオリン奏者として市川交響楽団にも在籍。

著書は「腸内細菌の話」「健康長寿のための食生活」(以上、岩波書店)、「腸内菌の世界」(叢文社)、「人の健康は腸内細菌で決まる!」(技術評論社)、「腸を鍛える―腸内細菌と腸内フローラ」(祥伝社)、「大切なことはすべて腸内細菌から学んできた」(ハンカチーフ・ブックス)など多数。

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光岡知足

光岡知足 Tomotari Mitsuoka

東京大学名誉教授、理化学研究所名誉研究員、農学博士。1930年千葉県市川市生まれ。東京大学農学部獣医学科卒業、同大学院博士課程修了。1958年理化学研究所に入所。日本に「腸内細菌学」という新しい分野を樹立した第一人者。『腸内細菌の話』など著書多数。