
「西洋的な医学をベースにしつつも、『和』をもって病気を治していく」
竹田潔②
腸管免疫と腸内細菌の「共生」のメカニズムを解明し続ける、免疫学の世界的権威・竹田潔先生のインタビュー。全2回シリーズの第2回です。
■腸の上皮がストレスで弱くなっている?
免疫細胞と腸管腔(腸内環境)との間に単層の上皮細胞があって、ここが健康であれば病気が起こらない可能性があるんだろうと、これがまず一つのアイデアです。クローン病と潰瘍性大腸炎という二つの炎症性腸疾患を比較すると、クローン病は小腸と大腸のところどころに飛び石状に症状が見られます。
ええ。炎症が起こっているところは炎症細胞、免疫細胞がどんどん集まってきた結果としての肉芽腫ができます。その結果として、炎症が起こっているところは腸管壁が分厚くなってしまう、どんどんと炎症細胞がここに集まってきてしまう。一方、潰瘍性大腸炎は、直腸側、肛門側から始まる連続性の病変で、大腸にしか見られません。
炎症が起こっているところを見ても、クローン病のように炎症細胞が集まった結果としての肉芽腫はほとんど見られず、いわゆる潰瘍という、上皮の障害がメインなわけです。それともう一つ、クローン病は家族性にも時々見られますが、潰瘍性大腸炎はそれほどでもない。家族性はクローン病ほどには出てこない。
はい。先ほどの遺伝的素因と腸内環境因子の関係を考えると、クローン病というのは、遺伝的素因、特に免疫系が暴走するような遺伝的素因があるような患者さんが多いです。実際にクローン病の遺伝子解析では、免疫系の遺伝子の異常が見つかっています。だから、クローン病というのはどちらかと言えば遺伝的素因があって、免疫系の暴走が起こったところが症状として点在しているんだろうと。
一方、潰瘍性大腸炎については、遺伝的素因としては基本的には上皮なんだろうと。上皮のバリアがなくなれば根本的に生きていけないので、たとえばストレスなどで簡単に剥がれてしまうなど軽い異常があって、それが発症につながっている可能性があります。普段生活している限りは特におかしくはならないのですが、ストレスに上皮が弱い状態になっているのではないかと考えています。
それだけでは病気にはならないんですが、そこにひどい腸内環境の変化があれば、病気が起こってくる、それはバリア機能が低下しているから起こってくるんだろうと。
そうですね。病気をどのように治療するかということを考えた場合に、たとえば免疫系がおかしくても、上皮にバリアを作ってやればいいので、この上皮細胞のバリア機能を強化するような方法が開発されれば病気は治せるんじゃないかと思うんです。
そうですね。消化管の上皮細胞というのは粘液層で覆われているんですが、特に大腸の粘液層はきわめて分厚いのです。
いえ、粘液です。上皮細胞が作り出すネバネバの液体。成分としてはムチンなどですね。粘液層ができた結果、腸内細菌が上皮に入って来られなくなっているんですよ。
健康な状態では宿主と腸内細菌が出会ってないんです。
粘膜というのは上皮とその下の粘膜固有層を含めた組織すべてのことをいいます。実際は大腸の腸管の中です。粘液については、上皮細胞がどんどん分泌してネバネバした層ができているということです。
そうですね。粘液があるとここは無菌で、先ほども言ったように出会うことがなければ絶対に炎症は起こらないですから。実際にマウスの実験になりますが、炎症が起きているマウスはこの無菌層がなくなっていてどんどんと腸内細菌が宿主と出会っているわけですよ。
じゃあ、どうしてここが無菌になるのかと問われると、よくわかっていないのですが、最近僕たちはLypd8という分子を見つけまして、ムチンと同じように上皮細胞から分泌されていると考えられます。通常は人でも同じように発現しているのですが、潰瘍性大腸炎の患者さんでは全然発現がなくなっているのです。マウスの実験でも、この分子をなくしてしまうと無菌層が無くなってしまう。
その後調べてみると、Lypd8が腸内細菌の中でも鞭毛を持っているような菌と会合して……。鞭毛を持っている腸内細菌はどんどん運動しますが、Lypd8はその運動を止めて侵入を防いでいるような分子なんだと思います。鞭毛を持っている腸内細菌は運動性が高いので、粘液層に異常があればどんどんと侵入してきて、その結果、腸管炎症を起こす。僕たちにとって、本来は必要な常在細菌なのですが……。
ええ、そういったところでアプローチが可能だと思います。潰瘍性大腸炎になることで発現が減っているわけですから。たとえば、病気でどうしようもなく減ってくる場合、鞭毛の動きを止めるような薬剤を開発できれば、その菌を殺すわけではなく症状が抑えられる可能性があります。今までは抗生物質などで菌を殺すという感じでしたが、そうではなくて鞭毛の動きを止めるわけです。そうした薬剤であれば、炎症性腸疾患のコントロールは可能になってくるのではないかと思います。
■ムチン層を強化する「生体絆創膏」があれば
研究室でもそれは実験しているところです。ただ、治療薬として考えた場合、タンパク質を作るわけですから高価なものになると思うんです。生物学的製剤と一緒で……。
そうですね。
ありえると思います。
そのあたりは難しくて。よく女性の美容のためにヒアルロン酸やコラーゲンを摂ったらいいと言うじゃないですか? ただ、食べたものがどう届くのかという疑問もあるので……。
そうなんです。生理的なことで言えば、上皮の上にきれいなネバネバを作るということが必要だとは思いますが……。
行くのかな?とは思いますね。
そうですね。要は、ネバネバが上皮にちゃんとくっつけば病気は治せると思うんです。だから、上皮の機能を強化するような「生体絆創膏」を作りましょうと。ムチンの代わりになるような水分だけは通すけれど、腸内細菌は通らせない絆創膏ができれば絶対に病気は治せますよと。まあ、どうやって作ればいいんだって話ですけれど(笑)。
そのあたりはどうなっているんでしょうね?
そうですね。炎症性腸疾患の予備軍はかなりいると思いますのでね。
ええ、そうなのだと思います。
どうなんでしょうね。僕は基礎の研究者なのでエビデンスがないことはあまり簡単には言えないところがあって、「これなら大丈夫」というのはなかなか難しいです。
■「リーキーガット」はなぜ起こるのか?
セリアックディジーズ(セリアック病)ですね。それはサイエンス的にも証明されてきているので、ありえることだと思います。
ありえます。僕の中では、それも潰瘍性大腸炎の原因の一つであろうと考えています。
まだわかってないですね。先ほどお話しした、上皮層のバリアをいかに強化するかってことだと思うんですね。ストレスでそこにどうリーキーガットが起こるのかということだと思うんですが……。
ええ、ありえます。
ないですね。
難しいと思いますね。リーキーガットという現象が病気の原因としてあるのは事実なんですが、じゃあ、どうしてそれが起こるのかはよくわかっていないんです。実験的にも「あれで起こる、これで起こる」とか「この遺伝子で起こりやすい」というのはあるので、それらが総合している可能性はあると思うんですけれどね。
そうですね。炎症性腸疾患もそこにターゲットを絞れば何かできるんじゃないかと、いま思っていて……。
そういうことです。
審良先生が独立し、トールライクレセプターの解析を始める前、僕は岸本忠三先生のところでサイトカインのシグナルの研究をやっていたんです。そのサイトカインシグナルの中にSTATファミリーという転写因子ファミリーがあって、岸本先生の研究室ではインターロイキン6のシグナルを伝えるSTAT3の遺伝子に着目していたんです。
僕は大学院生としてこの研究に参加して、STAT3のノックアウトマウスを作るというのが最初の研究課題だったんですね。そのノックアウトマウスを作ると胎生致死になってしまって……。
マウスがお腹の中で死んでしまって産まれてこないので、じゃあ、組織特異的にSTAT3という分子を潰そうということで、マクロファージのような自然免疫担当細胞でSTAT3を潰していくと全身で自然免疫が過剰活性化されてくるんですが、病気としては炎症性腸疾患が起きるので、「腸の病気だけがなぜ起こってくるのか?」にすごく興味を持ちました。
その一方で審良先生が独立されてトールライクレセプターの研究を始められたこともあり、将来独立したら、自然免疫と腸管炎症で研究を始めようと思って……。まあ、経緯としてはそんなところですね。
いえ、それまでは自然免疫担当細胞なんて何をしているものかよくわかっていませんでしたから。ただ、こうした研究と並行してトールライクレセプターの解析を行い、そこから微生物、自然免疫、獲得免疫という流れがわかってきて、もともとそれは感染病原微生物が対象なんですが、炎症性腸疾患という病気にも同じ流れができたということです。
そうですね。だから免疫とひとまとめで言いますが、最初は自然免疫が腸内細菌を認識することから始まって……。
上皮細胞じゃなくて、上皮細胞の壁を越えたその下にあるマクロファージとか樹状細胞です。
そうですね。
そうです。上皮の直下にいるマクロファージが過剰活性化されると、トールライクレセプター依存性になって、どんどんと炎症性腸疾患が起こってくるということです。そういうアイデアもあるので、僕は上皮で分け隔ててやれば病気は起こらないだろうと考えているわけです。
■腸の代謝産物に病気の原因が隠されているかもしれない
今はもう増えてきていますね。もともと畑違いだったのが合体して、一緒になってきましたから。はじめは僕も自然免疫の異常ということに着目しましたが、研究を続けていく中で腸内環境因子の重要性も意識しながらやるようになっていきました。
基本的には、やはり小腸と大腸は違うんですけども、大腸も排泄だけでなくて、腸内細菌の代謝産物、たとえばビタミンとか短鎖脂肪酸などは大腸でできてきますし、食物繊維の分解なども大腸の腸内細菌が嫌気性発酵することで行っているので……。
しています。働きが違うというのはもう絶対ですけれども。
そうだと思いますね。
そうですね。メタボリックシンドロームも、脂肪組織が沈着している部分では免疫細胞が侵入して炎症が起こっています。それがメタボリックシンドロームを引き起こしているのだろうということはわかってきています。
そうです。
そうだと思いますね。欧米の研究ですが、肥満の人の腸内細菌叢は全然変わってしまっているので……。腸内細菌叢は調べれば調べるほど個人差が大きくて、「結局、何なんだ?!」となってきていますけれど、先ほど言ったように、全然違う地域に住んでいて腸内細菌叢が根本的に違う人でも、基本的に健康な人は健康なんですね。それは、吸収する代謝産物は基本的にはほぼ同じであるわけがですから、代謝産物をきっちりと見ればそこにクリティカルな要因が出てくるかもしれません。
ええ。10〜20年後になれば病気に関わる代謝産物がわかってくるのかなと思います。炎症性腸疾患はその場で起こっているのであまりないと思うんですが、多発性硬化症のように全身で起こる病気には、何かそういった要素がキーワードとして出てくると思いますね。
ええ。そうなっていくと思います。
↓インタビュー第1回(前編)はこちらをご覧ください。
1966年、大阪生まれ。大阪大学大学院医学系研究科教授。専門は、免疫制御学、粘膜免疫学。1998年、大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。兵庫医科大学医学部助手、大阪大学微生物病研究所助手、九州大学生体防御医学研究所教授を経て、2007年より現職。大学時代より岸本忠三、審良静男氏のもとで学ぶ過程で免疫と腸の炎症性疾患の関わりに興味を抱き、サイトカインシグナル伝達の分子機構の解明、消化管粘膜免疫機構の解析、自然免疫機構の解析などに従事。独立後、潰瘍性大腸炎やクローン病などの解明に取り組んでいる。http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/ongene/
Copyright © 日本セルフメンテナンス協会 All Rights Reserved.
Powered by WordPress with Lightning Theme & VK All in One Expansion Unit by Vektor,Inc. technology.

竹田潔 Kiyoshi Takeda
大阪大学大学院医学系研究科教授、免疫学フロンティア研究センター副拠点長。自然免疫におけるトル様受容体(TLR)の機能解析など、腸管免疫と腸内細菌の共生関係の解明において世界的な成果を挙げている。